「日本のクラリネットの父「アイヒラー」、日本のアンサンブルの育ての親「稲垣征夫」。二人の音楽の絡み合いが見事!『アイヒラーのスケール』著者の貴重な録音。
曲目
2本のクラリネットのための二重奏曲/C. P. E. バッハ
「四季」にもとづく12のテーマより/ヨーゼフ・ハイドン(ディーター編)
12の二重奏曲「ケーゲル・デュエット」より/W. A. モーツァルト
2本のクラリネットのための「6つの二重奏曲」より/I. J. プレイエル
2本のクラリネットのための「魔笛」/W. A. モーツァルト(ブッシュ編)
発売元:(有)ジェイズミュージック
録音日:2005年11月24・25日
録音場所:Musikheim(Guntramsdolf,Wien)
CD「DUOS」に寄せて : 稲垣征夫
このCDは私とロルフ・アイヒラー氏との友情の証として制作された。
“ロルフ・アイヒラー”。クラリネットを正式に学んだことのある人なら、一度ならずこの名にふれていると思う。そう、クラリネットを学ぶのに欠くべからざる書として多くの人に使われている「Scales for Clarinet」の著者である。
彼は1952年に来日して2年間N響で演奏、オーケストラとはこうあるべきもの・・・を楽員に伝え、また東京芸術大学で学生を教えた。彼の来日は、それまで正しいシステムでクラリネットを学ぶことが出来なかった日本のクラリネット界に大きな貢献をし、「日本のクラリネットの黒船」といわれた。俗に言う「アイヒラーのスケール」は、当時ロクな教本がなく練習しようにも何から手をつけて良いのか分からなかった私たちに、「まずスケール」という意味で、アイヒラー自身によって作られ、それに基づいてクラリネットを学ぶというシステムを日本に築いたのであった。
そんな偉大な氏と私が正式に出会ったのが1989年。初めてウィーンを訪れモーツァルトの曲のレッスンを氏から受けた時であった。それから断片的ににお付き合いをしていたのだが、決定的なつながりが出来たのは東京クラリネット・クワイアーの第17回定期演奏会での事であった。その時はアイヒラー氏と、N響で彼と一緒に吹いていた、私の師でもある大橋幸夫先生をゲスト・コンダクターとして招いていたのだが、彼らが一緒にステージに立つのは実に50年振りのこと。そこでアイヒラー氏から「大橋の棒で二人で吹かないか?」と提案され、シュターミッツの「二重協奏曲」を吹く事になったことがきっかけである。準備のためウィーンへ行き、二人で練習した時に、音楽の方向性が同じと言われ、ロルフ、イクオと呼び合う仲になったのである。
以来、何かにつけてデュエットを楽しんできたのだが、やる度にこれを何とか記録して残しておきたいという思いが深まり、その結果作ったのがこのCDである。始めは簡単なもので二人だけの記録にしておくつもりが、イザ録音が始まってみると、私たちもスタッフも熱くなり、本格的なセッションになってしまった。アイヒラー氏はこの時77歳。ウラッハの数少ない弟子の一人として、その師の音を彷彿とさせる音を持つ彼のディスクは少ない。
このCDから、そのふくよかな音と我々の友情を感じとってもらえれば、この音源は貴重な記録として未来に残ることであろう。
(稲垣征夫)